高岡壮一郎著 INVESTMENT STRATEGY OF WEALTHY CLASS

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高岡 壮一郎(ヘッジファンドダイレクト株式会社 代表取締役社長)著

第3章 なぜ富裕層はヘッジファンドに投資しているのか?

第2節 年収数千億円のヘッジファンド・マネジャー9名の素顔

今まで語ってきたヘッジファンド、その運用者であるヘッジファンド・マネジャーの素顔を見てみよう。資産が数千億円ではなく、年収が数千億円。間違いなく現代の資本主義社会での成功者たちである。彼らが何を考えているか、どのような経歴なのか、そして、どのように投資手法で富を築いてきたのか、個別に見ていく。

①真実を追求し16.5兆円を運用する
世界最大ヘッジファンドのレイ・ダリオ

レイ・ダリオが率いるヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツは、世界最大のヘッジファンドで、創業来の年率平均リターンは13%。運用資産は約16.5兆円、小さな国の国家予算を優に超える規模である。2010年のリターンは+44.8%で、利益額はグーグル・アマゾン・ヤフー・イーベイの2010年の利益額合計を上回った。

約350のクライアントには公的機関や大学、公的年金基金、慈善財団、国の中央銀行や政府機関等も含まれる。彼自身二度の生涯功績賞を受賞している他、ブリッジウォーターも数十の優秀賞を受賞している。

米専門誌『インスティチューショナル・インベスターズ』の発表したヘッジファンド・マネジャーの報酬ランキング3位で、その額は14億ドルである。

ダリオの投資手法は、過去に起こったことに対し市場がどのような反応を示したかを詳細に1億以上のデータ系列を分析し、100年分遡った上で、普遍的法則を探り出す。ダリオは、政府や中央銀行は自分たちが伝えたいことに合わせて作り話をでっちあげると考えている。政府公式発表を信じてマーケットが動いたその時こそ、真実を見抜く目を持つダリオが逆に動いて利益を出すのである。

ダリオは従来の分散投資理論を改良した「ポスト・モダン・ポートフォリオ・セオリー」を生み出した。従来の分散投資理論では、2008年の金融危機によって▲40%の結果となってしまうからである。この新理論は、新しいパッシブ戦略として、機関投資家に受け入れられるようになっていった。ダリオは市場自体が有するリスクであるベータをまずしっかり新理論により理解・管理し、その上でアルファ(市場平均を上回る超過収益)を探すように他の機関投資家にも呼びかけている。

ダリオは、ジャズミュージシャンの父親、専業主婦の母親という家庭に生まれ育った。12歳ではじめて買った株が値上がりして味をしめ、高校生の時には数千ドルを運用するようになった。ロングアイランド大学に入学し、金融を学び、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した。アナリストとして就職したのち、27歳でクビになりアパートの一室でマクロ経済のレポート販売を行うブリッジウォーターを創業した。分析が好評だったため、10年後にファンドマネジャーとなった。ダリオのレポートを熟読していた世界銀行の職員から、資金を預かってくれないかと持ちかけられた。

ダリオによると、人生に唯一最大の影響を与えたというのが「超越瞑想」である。わずか20分の瞑想が何時間分もの睡眠不足を解消し、物事に対する考え方も変わり、以前よりも集中したり、創造的になることができるという。

ダリオが「投資界のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれることもあるのは、その確信性に加えてジョブズと同じく禅に傾倒したところなどの共通点があるからである。

②サブプライムで600% 150億ドル儲けたポールソン

金融危機で数多くの銀行や団体が崩壊の危機に直面するなか、「金融史に残る最高のトレード」とまで呼ばれるトレードを成功させた人物がジョン・ポールソンである。「史上最高のトレード」は、サブプライム資産の空売りだった。独自に分析した結果、アメリカ住宅バブルの崩壊時期を見抜いた。アメリカ金融機関の2007年のトレードから合計150億ドルの利益を得て、ポールソンの会社はその年600%もの上昇を記録した。

ポールソンが、サブプライム資産が紙屑になると確信して売って儲けた反対側には、サブプライムを買って大損した者がいる。それが、シティバンク・UBS・メリルリンチだった。なぜ、このようなことが起こったのか? 理由の1つがインセンティブと文化の違いである。

ヘッジファンド創業者は、他人の資金を預かる際に、自分の資金をもファンドに入れるため、投資対象をしっかり分析するインセンティブがある。しかし、大手銀行のサラリーマントレーダーは、実際の資産を分析することなく、その資産につけられた形式的な格付けを信じるに過ぎなかった。また、大手銀行はトレード以外にも手数料で稼ぐ部門がある。大手銀行は自社がサブプライムを買いこみ、尋常ではない資産価格下落リスクを抱えているにも関わらず、大手銀行の経営陣は、サブプライム関連の売買手数料で儲かっていると思い込んでいた。大手銀行には、市場の動向に対応して機敏に動く文化はなかった。こうして、真実を見抜けず動きの遅い者が損をして、真実を見抜いた者が大儲けするという当然の帰結となった。

2007年末までに150億ドルの利益を生み出したこのトレードにより、アメリカの連邦議会は、ヘッジファンドがどのように金融市場に影響を与えているかを学ぶことにしたほどである。彼以外に議会での発言を求められたのは、ジョージ・ソロスやジム・シモンズ、ケン・グリフィン等だが、ポールソンの発言がもっとも強い注目を集め、彼が口を開くと、議会の場にいた人だけでなく、CNBC、ブルームバーグ、議会中継専門のケーブルテレビCスパンを通じて多くの人が耳を傾けた。

FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の元会長のアラン・グリーンスパンはポールソンの友人の1人である。グリーンスパンはFRB在任中より、退職後はクライアントを3つまでしかとらないと決めており、その2つは資産運用会社が決定し、残り1つはヘッジファンドにしようと考えていた。選ばれたのがポールソンの会社で、2008年1月、グリーンスパンはポールソン・アンド・カンパニーの顧問に就任した。

グリーンスパンはポールソンについてこう語る。

「彼は相対リスクを判断する能力、そして自分が下した判断を利用する能力に優れている。失敗することもあるが、失敗は誰でもするものだ。彼は投資の規律を守り続けているので、失敗の可能性よりも成功を続ける可能性のほうが格段に高い」

『フォーブス』が発表した2016年億万長者番付で108位、資産額は79億ドルである。

③年率62%、60億ドルを操る男。伊藤忠を怒らせるチェイノス

2016年7月27日、伊藤忠を粉飾決算呼ばわりし、同社の株価を年初来安値に導いたヘッジファンドがある。それが「金融界の探偵」と呼ばれるジェームズ・チェイノスが率いるグラウカス・リサーチ・グループである。2001年にはアメリカのエネルギー会社大手のエンロン社の不正会計を見抜いたことで有名である。

チェイノスの率いるキニコスの運用資産は約60億ドル、2008年には年間リターンが+62%に達した。

チェイノスはイェール大学で経済学の学位を習得し、シカゴでアナリストとして勤務していた。その際、株に関するレポートを書いたのがきっかけで、偶然にも空売りのチャンスを見つけ、1985年に個人投資家からの資金を集めてヘッジファンドを創業した。

チェイノスは、中国の経済成長に対していち早く警鐘を鳴らし、大規模な空売りを行ったことでも知られている。中国の国のバランスシートには敢えて表れない形で、国有企業や地方自治体が負債を増加させていることを見抜いた。中国の成長はまだまだ続くと考えられていた2009年、自身は中国に対して弱気であると意思表示を行った。市場からは嘲笑されたが、自前のアナリストを定期的に中国に送り込み、現地の不動産市場をつぶさに観察してきたうえで結論づけた。チェイノスが中国株を空売りしたのち、中国の不動産は完全にバブルであったと、中国人民銀行(中国の中央銀行)とIMFも認めた。

④ハーバード大学の寮で18歳で起業、報酬世界一のグリフィン

『フォーブス』とアメリカの投資専門誌『インスティチューショナル・インベスターズ』がそれぞれ発表した、2015年分のヘッジファンド・マネジャーの報酬ランキングで両方ともに1位となったのが、ケネス・グリフィンである。その金額は1700億円相当である。グリフィンは2014年度の報酬額も13億ドルで2年連続トップ、業界の盟主と言える存在である

グリフィンの率いるシタデル・インベストメントはシカゴのヘッジファンドで、複数の投資戦略を駆使するマルチ戦略ヘッジファンドである。レラティブ・バリュー戦略やイベント・ドリブン戦略、アービトラージ戦略を組み合わせたポートフォリオを組む。シタデルには、前FRB議長のバーナンキも上級アドバイザーに就任している。会社の運用総資産額は3兆円を優に超える。グリフィン率いるシタデル・インベストメントの運営するファンドであるシタデル・グローバル・エクイティーズの運用実績は年利17.2%である。

グリフィンは学生時代、『フォーブス』を読んで投資に興味を持ち、18歳でハーバード大学の寮の自室でヘッジファンドを創業、卒業までに100万ドルを運用するようになった。オプション取引からスタートし、その後アービトラージ、転換社債取引へと移行し、1900年にシタデル・インベストメント・グループの前身の会社を設立。2000年初めには31歳で20億ドルを運用、2007年には資産が130億ドルに膨らんだ。規模の大きさはヘッジファンドの強さでもある。グリフィンは、異なる戦略を持つ優秀なヘッジファンドを複数束ねた上で資金アロケーションを行うことで、運用資産規模の拡大ができるはずだと経営学的視点で考えた。最先端のコンピュータを導入しスムーズな取引を可能にし、法務部門は世界各国の規制に精通、財務部門はブローカーから有利な条件を引き出すことを目指し、マーケティング部門は機関投資家から安定して巨額の資金を提供してもらえるよう、月次レポートを量産。プラットフォームの効率性を追求し、多額の資金を扱えるようにした。自社を職人的ヘッジファンド・マネジャーのためのプラットフォームにしたのである。

グリフィンによると、シタデルという運用会社は、飛行機のようなもので、定量分析グループがエンジンを構築する。このグループには大勢の物理学の博士号取得者がいて、独自の数学的方法を開発し、向上させている。テクノロジーチームが飛行機の機体をつくり、トレーダーはコックピットのパイロットの役割を果たしている。

ニューヨークの425パークアベニューに立地するオフィスビルの複数フロアをオフィスとして借り切り、年間の賃料は70億円以上で業界最高額水準である。個人としてもニューヨークのペントハウスを複数戸合わせて2億ドルで取引し、こちらも個人の一度の取引額としては最高額となっている他、マイアミの6000万ドルのペントハウスの所有も明らかになっており、業界の不動産王でもある。40歳台にして、本拠を置くイリノイ州で一番の資産家となった(75億ドル)。

グリフィンは2003年に結婚、ともにシカゴに拠点を置くヘッジファンド・マネジャー同士というカップルで、3人の子供をもうけた。夫人は、3人の子供とともに旅行に出かけ、代理人を通じてグリフィンに離婚を通告してきた。要求は財産分与のほかに、子供の養育費として月額1億円であった。

⑤ノーベル財団の資金を預かる
数学オリンピック金銀メダリストツーシグマ

ノーベル賞を制定しているノーベル財団の資金を預かるのがAI(人工知能)を活用する科学者集団であるツーシグマである。数学オリンピックの金銀メダリスト8人を擁し、約3兆7000億円を運用する。オーバーデックとシーゲルは、2015年のヘッジファンド・マネジャー報酬ランキングで7位に入った。報酬額はそれぞれ5000億円である。

ツーシグマはジョン・オーバーデックとデビッド・シーゲルの2人が2001年に創業。2人は共に大手運用会社のDEショー出身で、数学の研究やクオンツ運用で実績を持つ。オーバーデックは1986年、第7回国際数学オリンピックで16歳にして銀メダルを獲得。そのときからすでに「論文を書いても満足できそうにない。それよりも数学を何かに生かしたい」と語る。シーゲルは自分のバックグラウンドはAI(人工知能)技術であるとし、マサチューセッツ工科大学ではロボットのプログラミング等を学んでいた。

ツーシグマはデータセンターで独自の投資環境や技術開発の研究を行っており、企業の発表、幹部の売買や機関投資家の売買、天候、それらに加えてツイッター等SNSも合わせてデータと相場の動きを分析し、運用モデルの開発を行っている。

ツーシグマのファンドの運用成績は2014年が25.56%、2015年が15.02%と2年連続2ケタを記録。投資家からの信頼度合いを表すランキング「ヘッジファンドレポートカード」でも、ツーシグマは5位に入った。運用資産額も2011年の50億ドルから2014年7月には200億ドルを突破、同年10月には230億ドルとなり、現在の運用資産総額は280億ドルに達した。

ツーシグマの約900人の従業員のうち、3分の2は研究開発部門に所属し、従業員の6割は非金融業の出身者である。マサチューセッツ工科大学やカーネギーメロン大学、カリフォルニア工科大学等でコンピュータサイエンスや数学、工学を修めた者たちが集まっている。ツーシグマが人材獲得のうえでのライバルと考えているのは、ゴールドマン・サックスやジョージ・ソロス等の金融関係ではなく、グーグルやフェイスブックといったシリコンバレーのIT企業である。

ニューヨークのオフィスもウォール街ではなく、ダウンタウンのSOHOに構えている。社内の様子は金融の会社というよりもITベンチャー企業に似ている。

彼らは単に金融的に考えるのではなく、人間の意思決定を考慮できる人工知能のアプローチを可能にできる開発に日々勤しんでいる。

シーゲルは「人間の行動は、1人の人間の行動を予測するのは難しいが、多数の人間の行動となると簡単に予測できる。人間の行動が予測しやすくなければならない理由は、そうでないと社会が崩壊するからだ。人間の行動は『普通』という範囲に収まる」と言う。

コンピュータプログラムの活用はヘッジファンドの運用でメジャーになりつつあるが、コンピュータで割り切れない人間の意思決定による部分を、いかにコンピュータが把握できるかが大切だとシーゲルは考えている。人工知能を資産運用に活かすことについて、シーゲルはこう話している。

「これからはコンピュータがすべての思考活動を行う、と言う人もいるが、今でも解決すべき〝問題の設定〟をしているのは人間だ。コンピュータのアルゴリズムは、これまで人が考えもつかなかったリスクを発見できるかもしれないが、問題設定能力を持っているようになるかは疑問だ」

ツーシグマによると、変動する価格も、天候の変化も、進む国際化も、すべてつながっているという。アップル社の業績予想をするときには、下請け企業がある中国の経済予測をしないと正確に当てることができないように、従来と異なり今日では1つのことを分析するために関連する多数の情報を分析する必要がある。

ツーシグマは、人工知能と発展させてきたテクノロジーで、データに法則性を見出し、投資、投資の戦略を構築していく。バズワードである「ロボアドバイザー」と自らを呼ぶことなどせず、彼らは着々と運用実績を積み重ねている。

⑥稼ぎは世界一、「最も賢い億万長者」シモンズ

2015年に業界1位の約17億ドルを稼いだヘッジファンド・マネジャーが、暗号解読者のジェームズ・シモンズである。スターバックスとコストコの利益合計額よりも稼いだと言われた。グリフィンの台頭以前は長年にわたり、何度も報酬ランキングの1位を獲得してきた人物でもある。『フィナンシャル・タイムズ』で「最も賢い億万長者」と評されている。

シモンズの功績は、ヘッジファンドに数学的なアプローチを取り入れ、コンピュータ主導の取引の仕組みを創ったことで、シモンズが率いるルネッサンステクノロジーの旗艦ファンドであるメダリオンは年率39%のリターン(1989年~2006年)を記録している。普通の人にはランダムに見えるチャートの動きも、暗号解読者にかかると統計的に有意な規則性があり、そのパターンに沿って短期売買すれば収益があがるとする。

シモンズはアメリカ、マサチューセッツの靴工場の所有者の子として生まれ、マサチューセッツ工科大学で数学を、その後カリフォルニア大学バークレイ校で文学を学んだ。

ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学の両校で数学教授に就いた経歴もある。数学者として「チャーン・シモンズ理論」として知られる理論を構築し、幾何学で最高の栄誉とされるアメリカ数学界のオズワルド・ヴェブレン賞も受賞している等、数学の世界で多くの実績を残した。

シモンズはアメリカ国防総省の国防分析研究所で暗号解読者として勤める等したのち、相場で取引を開始した。勘と経験による投資の判断を数学的なモデルで置き換えられないか、自分に代わってコンピュータに取引をさせたいと考え、1970年代後半より数学に強い人間を雇い始めた。そのなかの1人が、数論でアメリカ数学会の権威的な賞、コール賞を受賞したジェームズ・アックスだった。シモンズは1988年、アックスとメダリオン・ファンドを興した。コンピュータが生成したシグナルに基づいて商品・金融先物を扱った。

「数学的な、きちんと統計的な見方をすれば、そのパターンを見分けることができる」そう考え、コンピュータで何千ものイベントに対する何千もの反応をつぶさに観察することで投資の勝率を高めている。たとえば「朝の天気がよければその町の証券取引所の相場は上昇する」傾向があると発表した。ただしあまりに僅かな上昇なので、この傾向だけでは効率的に儲けることができないため世間に発表したのだという。

統計からわかる儲けの種は秘密情報である。秘密が流出しないように金融業界からの転職者は採用しなかった。一度転職した者は、また転職するからだというのがその理由だ。

物理学者や天文学者はチームに入れるが、経済学者は入れない。経済学者は「株が安い」と言うかもしれない。しかし、「株」とは何か。米国株全部なのか、それとも米国株の中の大型株だけなのか、新興国株は含むのか。「安い」とは何か。PERが低いということか、PBRが低いということか。低いとは、平均値を何%下回ることなのか。このように科学的に数字によってすべてを定義するためである。

市場には小さな非効率が数多く存在する。本来の価値より割高なものや割安なものが溢れている。それが本来の価値に戻る(つまり市場が効率的になる)過程の中で年々利益を積み上げていくシステムをシモンズは作り上げた。相場の混乱期(割高や割安が発生しやすい)ほどその方法は威力を発揮する。1994年には手数料控除後で71%の利益を上げ、2008年には手数料控除後で80%、控除前で160%の利益を上げた。シモンズは72歳になる2010年に引退した。

⑦効率性市場仮説を否定した賢者ジョージ・ソロス

ジョージ・ソロスといえば、投資に関わっていれば知らぬ者のいないほど有名なヘッジファンド・マネジャーである。2008年の経済危機を予測していたとして、ウォーレン・バフェット、ポール・ボルカーFRB議長と並び3大賢人と称されている。

80代後半になった今も年間報酬額は3億ドル、『フォーブス』の発表した2015年ヘッジファンドマネジャー報酬ランキングで10位に入っている。資産総額は249億ドルとされる。1969年から一旦引退した2000年までの年率平均リターンは31%である。

ハンガリー生まれのユダヤ人であるソロスは1969年に自身のロング・ショート・ファンドを立ち上げた。運用資本は400万ドルだった。学術的なファイナンス理論では、合理的な投資家は株式の客観的な評価額を知ることができるとされていた。そのため情報が正確であれば、市場は効率的に動くことになる。しかし、ソロスは心酔していた哲学者の言葉から、そのような前提は成り立たない、そもそも人間は真理や現実を知ることなどできない、そして、市場において実体が伴わずに価格だけが高まることはあり、いつか暴落し適正価格に戻ると考えた。その予想は次々に的中し、1980年代に入った頃には、運用資産が3億8100万ドルに達し、初期資金を約100倍にした。

本人が「一世一代の大儲け」と語るのがプラザ合意時のドル売りである。1980年代、アメリカは貿易赤字の額を大きくしていた。赤字なので、ドルの需要は少ないはずであった。しかし、この時期にドルは値上がりしていた。投機的な資本の流入がドルの価格を押し上げていた。実体の伴わない値上がりはいつか適正価格に戻ると考えたソロスは、「ドルは暴落し、一気にドル安に進む」と読んだ。

ドル安に賭けたソロスは、ファンドの全資本を上回る7億2000万ドル分で主要通貨(円、ドイツ・マルク、ポンド)を購入した。1985年9月22日、アメリカのベイカー財務長官はフランス、西ドイツ、日本、イギリスの財務閣僚をニューヨークのプラザホテルに招集。これら先進5カ国は、ドル安の実現に向けて通貨市場に協調介入することを約束した。このプラザ合意により、ソロスは一晩で2億3000万ドルの利益をあげた。

ジョージ・ソロスといえば、「イングランド銀行をひざまずかせた男」という異名も有名である。ソロスによると、為替は各国政府の思惑により非効率的になるという。

イギリスで「ブラックウェンズデー(暗黒の水曜日)」と呼ばれる1992年9月16日、イングランド銀行は公定歩合を10%から12%に引き上げた。必要であれば15%にするとまで公約した。このとき、イギリスの実態は景気後退局面であると見抜いたソロスはポンドを売り浴びせた。イギリス政府は為替を維持できず、ERMからの離脱を発表し、ポンドはさらに価値を下げ、10%ほど暴落、ソロスは大儲けすることになった。

最近、ソロスはイギリスのEU離脱を前に現役復帰した。ソロスはイギリスがEUを離脱すればポンドは急落すると言っており、イギリスのEU離脱の予測も的中させた。EUの離脱予測に伴い進めていた金と金鉱株が目論見通り上昇したことで利益を出した。

⑧年俸4000億、リターン149%
集中投資で底値買いのデビッド・テッパー

損も大きいが利益も大きい。それがゴールドマン・サックス出身のデビッド・テッパーである。投資に興味を持ったのは11歳、父親が株式投資をしていたのを見たときだ。アメリカンフットボールで鍛えた身長180センチを越す体格にふさわしい豪快な運用スタイルで、テッパーの会社「アパルーサマネジメント」は年リターン20%以上を継続し、2003年には最大149%というリターンを記録。ヘッジファンド・マネジャーの報酬ランキングの常連で、何度も1位にランクづけされている。2009年報酬額40億ドル(4000億円)は、史上最高に近い金額である。

通常のヘッジファンドが投資対象を分散するのに対して、テッパーは30程度の投資対象に集中投資する。ハイイールド債やディストレス証券で割安なものを拾っていく。

テッパーが2003年に記録した149%という投資成績は底値買いによって稼いだ。当時、史上最大だった三大企業破綻(エンロン、ワールドコム、巨大保険会社のコンセコ)のディストレス債券の買いである。安い資産を誰よりも早く自分たちのものにしたことが大きな成果につながった。「落ちている金を拾え」はテッパーの運用スタイルを形容した言葉である。

2008年のリーマン・ショックの際もあわてることはなかった。翌年には80億ドルという利益を上げている。40億ドルという報酬はその年のものだ。

2011年にはファンドが巨大化しすぎたと、テッパーは6億ドルを投資家に還元し、ファンドの規模を120億ドルまで減らした。

⑨老舗ヘッジファンド
マン・グループ会長は香港人のティム・ウォン

コンピュータプログラムに基づいて、世界中の株や債券、商品市場等に投資するCTA(商品投資顧問)と呼ばれるヘッジファンド。NHKにも登場するほど著名なヘッジファンドであるマン・グループは、1783年に創設された。樽製造者のジェームズ・マンが砂糖の仲介業を始めた後、総合商社へと発展、その過程で資産運用関係の事業を次々に拡大。ニューヨークのミント・インベストメント・マネジメントを買収して、ヘッジファンドとの最初の合併を果たしたのが創業200年を迎えた1983年頃である。1980年代の後半には、10億ドル以上の資産を誇る企業に成長していた。

マン・グループの旗艦ファンドは、約180億ドルの運用資産を持つマンAHLだ。オックスフォードやケンブリッジで物理学を研究したアナリストが立ち上げ、1994年にマン・グループが買収した。1996年から2010年の年率リターンは16.7%だった。

マン・グループを率いるのは香港人エンジニアで、オックスフォードでエンジニアリングを学ぶ中で金融に触れ、AHLに入社。2001年にはAHLのCEOに就任。現在は会長となっているが、彼は今でも自分自身をエンジニアだと考えている。

「小さく負けても大きく勝てばいい。短いスパンで多少負けても、長い目で見れば必ず勝つことを目指す」と彼は言う。だからAHLは長期にわたる結果を重視する。

「『ヘッジファンドの運用はブラックボックス』という批判を受けることがあるが、わが社に関してはまったく的外れだと考えている。むしろ『透明性の高いボックス』だと言えるくらいだ。常に一定のルールに基づいて運用しており、市場の変化にコンピュータプログラムがどう反応するかを、きちんと説明できる。人間の裁量に基づく運用のほうが、よっぽど不透明だ」

ルーレットではギャンブラーではなく胴元になるというのが彼の考え方である。

「ほとんどのトレーダーは、カジノのルーレットで勝つことを目指す。しかし、私が目指すのは、カジノだ。プレイヤーが勝負を繰り返していくうちに、必ずカジノが勝つときが来る。統計的にカジノが勝つようにつくられているからだ。そして、この勝つ確率を高めることが、ヘッジファンドの最も重要な仕事なのだ」

2007年にはオックスフォードと共同で研究所を設立。AHLの社員とオックスフォードの学者たちが日常的に交流し、その精度を日々高めている。

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ヘッジファンドダイレクト株式会社代表取締役社長 高岡壮一郎著「富裕層のNo.1投資戦略」

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タイトル 富裕層のNo.1投資戦略
著者名 高岡 壮一郎
ジャンル 投資/資産運用
サイズ 四六判上製
頁数 372P
ISBN 978-4-86280-544-7
税込価格 1,944円(本体1,800円)
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