第4章 富裕層向け金融機関であるプライベートバンクと投資助言会社

第3節 富裕層向け金融ビジネスの現在

現在の富裕層向け金融ビジネス

前述の通り、シティバンクやHSBC、UBS等の外資系プライベートバンク各社の日本市場への参入競争は、最終的にクレディ・スイスに収斂した。海外ファンド投資助言会社らは規制整備によってプレイヤーが淘汰され、その流れが固まりだしたのが、2014年・2015年頃である。

同じ頃、金融庁による証券会社の商品販売姿勢への監視が重なり、証券会社は従来のような商品の回転売買による手数料収入の拡大が規制上やりにくくなった結果、「ラップ口座サービス」という形で富裕層の資金の受け皿を用意するようになった。

その動きに呼応して、リテールマーケットに大きなシェアを持つネット証券が、IFAと呼ばれる証券仲介業者を通じて、富裕層・準富裕層への対面による商品販売を強化するようになった。

金融業界は規制の動きと顧客の動きの２つの動きによって競争環境が変わってくる。

規制面で言えば、金融当局は、投資家利益の最大化を徹底して金融機関に指導をしている。その結果、投資家と業者の利害相反に厳しい目が向けられており、この流れは、販売サイドに立つ証券会社に対しては逆風で、顧客サイドに立つ投資助言会社には追い風となっている。

顧客面で言えば、年齢が若くなるほど、顧客の意思決定スタイルが金融機関との過去の折衝や人間関係に重きを置くものから、「コスト控除後のリターンを最大化するにはどうすれば良いか？」という経済合理性に軸足が移る。野村総研によると、富裕層ほど、インターネットリテラシーが高い。その結果、金融リテラシーの高い富裕層はピンポイントでオンライン検索を行い、自身にとって使いやすい業者を自分で探すようになっている。

その結果、富裕層においては、次のように、金融リテラシー・好みに応じて、使う金融機関の棲み分けが見られるようになった。

実利重視・・・投資助言会社を利用して、中立的に提案を受け、過去実績で選別した優良なヘッジファンドに運用を任せる（投資家自身が海外ヘッジファンドを選ぶ）

舶来感重視・・・外資系プライベートバンクで投資一任サービスを利用して、丸ごと運用を任せる（証券会社側が海外ヘッジファンドを選ぶ）

知名度重視・・・日系証券会社のラップサービス（投資一任サービス）を利用して、系列運用会社の投資信託を購入する（証券会社側が国内投信を選ぶ）

金融業界の中では「富裕層を対象に、不動産・保険・証券、すべてをワンストップで提供しよう」という企画が４年ごとに持ちあがり、毎回どこかの金融機関が挑戦する。曰く、顧客リレーション担当者と、その後ろの専門家が連携するという形であるが、大抵はうまくいっていない。それはなぜか？

実は近年の富裕層は自立的で、自分で各分野の専門家をネット等で探し出し、自分で専門家を組み合わせて自分専門のチームを組成してしまうからで、知識の浅い営業担当者よりも、富裕層の方がよほど金融に詳しく、プロジェクトマネジメント能力があるからである。

これからの富裕層向け金融ビジネスは、富裕層向けソリューションについて、顧客の利益第一を念頭に、徹底的に専門性を磨くことが求められるだろう。

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目次 Contents

はじめに

個人投資家にとって最高の時代が到来した

なぜ個人投資家の7割が損をしているのか？

• 通算成績で損をしている個人投資家
• 日本は南アフリカ以下の資産運用後進国
• 個人投資家の利益を優先しない販売会社
• 個人投資家の投資リテラシーは先進国で下位
• 三井物産入社1年目の頃（1999年～）

投資家のスタイルに関する７つの考察

• 投資判断を自分でするか、任せるかの二択
• 自分で運用する場合の情報源の見分け方
• 国際分散投資は机上の空論
• 個別銘柄の選別よりもアセットクラスの選別
• 円預金、インフレ率が2%なら36年後に価値は半減
• 投資信託の選び方
• 投資運用サービスの選び方（ラップ口座・ロボアドバイザー）
• 最高の投資戦略とは何か？
• 起業（2005年～）

なぜ富裕層はヘッジファンドに投資しているのか？

• ヘッジファンドが世界の中心になった経緯
• 年収数千億円のヘッジファンド・マネジャー9名の素顔
• ヘッジファンドの各種戦略
• 世界の富裕層や機関投資家がヘッジファンドに投資する3つの理由
• ヘッジファンドの仕組み
• ヘッジファンドのリスクと選別方法
• 個人が年利10%で運用する投資法との比較
• ヘッジファンドを購入する3つの方法
• 新しいビジネスモデルで日本に変革を（2008年～）

富裕層向け金融機関であるプライベートバンクと投資助言会社

• 富裕層向けプライベートバンク
• 富裕層向け投資助言会社
• 富裕層向け金融ビジネスの現在
• 挫折と再起動（2013年～）

富裕層が保有している「手頃なヘッジファンド」の実例

• 約1,000万円からヘッジファンドに投資できる時代に
• データ分析が強みの英国系名門ヘッジファンドA
• めったに損しない安定第一のスイス系ヘッジファンドＢ
• 18年間の運用で年次マイナスは2回だけ、債券より手堅いヘッジファンドC
• リーマン・ショックの年に50%リターン、下げ相場でも儲かるヘッジファンドD
• フィンテック時代の幕開け（2015年～）

フィンテック時代の資産運用

• 投資家による販売会社の中抜き
• 個人投資家のリテラシーの高まりと利益相反
• 個人投資家のグローバル化
• フィンテック革命による個人投資家への恩恵

おわりに　～フィクションとしてのマネー～

Author筆者紹介　髙岡 壮一郎

1999 年東京大学卒業後、三井物産株式会社に入社、海外投資審査、情報産業部門における新規事業立ち上げやM&A に従事。2005 年、あゆみトラストグループ（旧アブラハムグループ）を起業、ヘッジファンドダイレクト株式会社等のグループ各社の代表取締役社長に就任し、フィンテック領域にて富裕層向け金融事業・メディア事業を行う。

• 世界10万本以上のファンドデータベースから独自アルゴリズムで最適なファンドを選別、中立的な立場から投資家に助言を行うフィンテック企業ヘッジファンドダイレクト株式会社は、投資助言契約額累計895億円以上（2016年12月末現在）の実績を有し、海外ファンドを専門とする個人投資家向け投資助言会社として業界最大手。
• 純金融資産１億円以上の富裕層限定オンライン・プライベートクラブ「YUCASEE（ゆかし）」は会員資産１兆円以上で国内最大規模。
• 富裕層向けオンラインメディア「ゆかしメディア」は月間100万アクセス以上で国内最大級。
• 同グループ子会社として証券会社を香港に設立する等、グローバル金融に関する豊富な知見を有すると共に、「金融×IT」のフィンテック領域にて18年の経験を有する。