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高岡 壮一郎(ヘッジファンドダイレクト株式会社 代表取締役社長)著

第4章 富裕層向け金融機関であるプライベートバンクと投資助言会社

Column4. 挫折と再起動(2013年~)

2013年10月、雑誌『AERA』は「元三井物産エリートアブラハム敏腕社長の挫折と誤算」と報じた。急成長ベンチャー企業であるアブラハム・プライベートバンクに対し金融庁により6カ月間の業務停止命令が下されたのである。

首都圏の30~40代に限っては知らない人がいないほどまでに認知度が高まった矢先である2013年10月2日、「アブラハムに行政処分勧告か?」という観測記事が私のスマホにプッシュ通知で表示された。

「え? 嘘でしょ?」私は何かの間違いではないかと思った。それまで金融当局と当社で、当社業務が金商法上の「助言」か「勧誘(販売)」かを巡って議論をしている最中であったからだ。

『日本経済新聞』の速報について急いで当局に確認した結果、「そのような事実はない」と回答を受けたので、「一部報道につきまして、そのような事実はありません」と自社のホームページでプレスリリースを出した。

翌3日、アブラハム・プライベートバンクに対して、6カ月間の業務停止処分の勧告が金融当局から下された。「大手投資助言会社が無登録営業、金融商品取引法違反」として日経夕刊一面、NHKニュース、めざましテレビ等、広く報道された。

今回の処分の理由は、いわゆるインサイダー事件のような金融犯罪ではない。投資家に危害・被害を与えた等でもない。民事や刑事の事件でもない。「投資助言業界全体に影響を与える規制(2013年10月7日『日本経済新聞』)」で、当社に前後して、海外ファンド助言会社の10社弱が業務停止処分となった。

しかし、「投資助言会社大手アブラハム、金融商品取引法違反で業務停止」というニュースは、業界規制の話というよりも、まるで金融犯罪のようなイメージを世間に与えた。

「顧客資金を紛失したわけでも、いかがわしいファンドを勧めたわけでもない」(英『フィナンシャルタイムズ』2013年10月17日)と後追い報道も出たが、最初の報道のインパクトが大きすぎて、世間のイメージは変わらない。

イメージ悪化については、それまでの当社のコミュニケーションの稚拙さが落ち度であった。当時はアドテクノロジーを駆使してA/Bテストをネット広告で行いながら、タレントを使ってテレビや雑誌・新聞への広告出稿のPDCAを続けており、見た人に強いインパクトを与えていた。

「月5万円で1億円」というキャッチコピーが刺激的で、「年利10%のファンドなんか本当にあるのか?」という疑問も世間から出るようになっていた。当時の法令理解では、海外金融商品に関する情報を詳しくホームページに記載できないという規制があるとして、世間の疑問に正面から回答するコンテンツを公表しておらず、不十分な情報提供姿勢をやむなくされていた。

今思い返すと、そもそも宣伝が派手な新興投資会社には、後に詐欺事件になるものが多い。タイミングが悪いことに実際に海外ファンドを舞台にしたMRI事件という詐欺事件も世の中を騒がせていた頃であった。自分がまさか詐欺ファンドと同一視されるリスクがあるという自覚は当時はなかった。当時当社の顧問であった、三井物産の元副社長からは、世間で目立ちすぎることに対して充分注意するようにとは言われていた。

テレビCMの反応を分析すると、ターゲットである高額所得者層や金融リテラシーが高い層には評判は良かったが、投資未経験の一般の人からすると怪しいサービス以外の何物でもないという視聴者調査結果も並行して出ていた。

「急成長している怪しい疑惑の新興企業という印象が強まっているのでは?」と感じたのは、私に突然、雑誌『フライデー』の取材が入った頃だ。後の日銀副総裁が自社のオウンドメディアに出演してくれたのだが、当時の安倍政権と当社に何か癒着や金銭的つながりがあり、その結果、急成長をしているのではないか? という邪推も生まれ、とうとう私が『フライデー』から直撃取材を受け、横断歩道を歩いている最中の私の写真を隠し撮りされるという珍事が起きたのであった。

稚拙な広告はマイナスのブランド価値を累積しており、世間が警戒している中での業務停止処分の報道である。「やたら宣伝して急成長していたあの会社はやっぱり怪しかったので、お上に潰されたんだな」と世間に思われ、信頼が失墜するのもやむなしであった。

即日、当社を急成長ベンチャー企業として表彰していた監査法人トーマツは、過去の受賞を取り消すとの発表を一方的に出してきた。常々「失敗を恐れずに挑戦しろ」などとベンチャーを応援すると言っている人たちであったが、本当に失敗すると冷たくなるのが現実であった。しかし意外にも、冷たかったのはここだけで、その他の既存取引先の大半は、最大限できる範囲で、アブラハムを応援、支援する姿勢を見せてくれた。

金融当局による業務停止処分という行政処分は、大和証券や三井住友銀行、楽天証券やマネックス証券等、大手金融機関に対しても多発している。業務停止処分を下された金融機関は、適切に業務改善をして業務再開するか、潰れるか、である。アブラハム・プライベートバンクの場合は、金融商品取引法という業法上において、業務に必要なライセンスに関する解釈の問題が処分の主因であった。

「リラクゼーションサロン」と「医療行為」の境目、「ゲームのコイン」と「通貨同等物」の境目のようなもので、業法における業態の境目は実は曖昧である。金融業も同様だ。

銀行・証券・保険と規制により業種は3つに分かれるが、取引相手の信用リスクに応じて金銭をもらう契約は、ある商品は「保険」として扱われ、ある商品は「デリバティブ」と扱われる等、人為的に線が引かれている。前者と扱われれば保険業法になり、後者になると金商法の領域となる(元金融庁弁護士増島雅和2016)。

当社業務が「助言」と「勧誘」のどちらに該当すると考えるかによって、必要とされるライセンスが助言業登録か販売業登録かで異なる状況だった。そこに当社と当局の見解の相違があり、結果として、販売業ライセンス(登録)を有していない無登録営業状態と見做された。無資格であるから業務を停止すべきは当然で、業務停止処分となった。

法令上は明確ではない部分に関する当局による解釈の問題であったから、当事者である自分たちや顧問弁護士、大手法律事務所は、何をどのように業務改善すれば、当局の意向に沿うのか、その時点ではまだわからなかった。したがって、6カ月後に業務再開ができるかどうかも見通しが立っていなかった。もし業務再開できないとすれば、新規売上が永久になくなるため、企業として破綻する可能性もあった。そうなれば、数千人の投資家に迷惑がかかる。

テレビCMを派手に繰り広げ、スピード感を持って業容拡大した挙句の業務停止命令である。猛スピードで運転した挙句に、ガードレールに車体をぶつけ、ショックで視界が薄れ、事態がまだ呑み込めない中、ハンドルさばき次第で、このまま大破するか、元のコースに戻れるか。その瀬戸際だった。

この事態に対する私の初動が、会社の命運を決めるに違いない。処分が出た翌朝の最初の一言で、社員の前に立ち、全社に次のように発表した。

「業務停止中の6カ月間は新規の収入がゼロになる。それでも誰一人リストラはしない。全社員の雇用は維持する」

そんな渦中の折、かつて対談させていただいたことでご縁があった冨山和彦氏(元産業再生機構COO、現経営共創基盤代表取締役CEO)がアドバイスをくださった。

「過去、似たような状況で2つのパターンを見てきた。1つは、危ない方向に救いを求めてさらに深い淵に落ちていった人々。2つ目は、破綻の憂き目にあっても最後の一線は踏み越えずにあとで復活した人々。この難局を切り抜けられることを期待する」

そうか、正々堂々とやるのが一番の得策なのだ。企業再生のプロの言葉に大変勇気づけられた。幸い、創業以来、当社は無借金経営だった。金融機関から借金さえしていなければ、企業は事業休止になることはあっても倒産はしない。支払い期限にあせることなく、腰を入れて対応できる。

そんな折に誘惑があった。

「ここだけの話、私は金融庁の内部に知り合いがいるのだが、このままアブラハムは潰す方針のようだ。つまり君は再起不能である。よって今のうちに会社を売却すべきだ。20億円でどうだ」

そう言って会社を買いに来る人もいた。数千人の既存富裕層顧客と締結した投資助言契約が数百億円あり、そこから将来見込まれるストック収入の総額は約150億円以上の計算であった。現在価値で割り引いた時価は20億円、アブラハム創業者の私の株式持分が約90%。会社を売却して19億円を抱いてシンガポールにでも渡って楽になりなさい、というわけである。

しかし、それは逃げに感じられた。それは自分らしくない。倒れたら、立ち上がりたい。仲間である社員たちと一緒に再起を果たすことこそに、自分の人生の意味があると私は思った。30歳で起業を志し、40歳を迎える矢先である。テレビドラマで言えば、ここはまだ第3話「挫折」くらいではないのか。第4話のタイトルは「再起動」に決まっている。

打開策と先々の見通しを立てるため、金融業界に関わる様々な角度からの助言を得ようと、人づての紹介で、元金融大臣、財務省官僚、金融庁官僚、大手証券会社幹部等に相談をした。各立場の方の話を総合すると、当社のやるべきことは、一連の流れで次々に業務停止処分を下されていった他の海外ファンド投資助言会社たちとは異なるレベルの業務運営態勢・コンプライアンス態勢を構築し、個人投資家、ひいては日本社会にとって必要な企業・業態であると金融当局にしっかり認めてもらうことである、ということであった。

新しくシニアのコンプライアンスの専門家を採用したり、大手証券会社の元常務を社外役員に招聘しながら、粛々と行政対応を続け、販売業登録を有する新設子会社(アブラハム・ウェルスマネジメント)を設立する等の改善策を進めていった。

行政処分事由の1つには、広告表現についての指摘を受けたため、「アブラハムが推していた高利回りのファンドなんかは実際に存在しておらず、その結果、業務停止になったのである」という誤解も受けた。これらの誤った報道に対しては、後に「アブラハム・プライベートバンク株式会社に関する過去の一部報道について」等のリリースを出す等の対応を行いながら、再発しないよう広告審査態勢の確立等、内部統制の強化を進めた。

業務改善期間中に、『日経ビジネス』から「敗軍の将、兵を語る」に出ないかと取材依頼が来た。色々弁明したいことが山ほどあったが、今は言葉ではなく、業務再開という結果を世の中に見せるしかない。粛々とコンプライアンス態勢の整備等の業務改善に没頭した。

苦しい暗闇のような6カ月間を経て、2014年春に全社員揃っての業務再開になった。全社員が一丸となって難局に立ち向かってくれたおかげで、顧客の9割以上が残ってくださった。その後、東証一部上場企業のアサツーディ・ケイや、著名な投資家が新規出資者として入ってくれて、元気づけてくださった。金融庁が新しく販売業登録を付与したことでみそぎが済み、新しい監査法人もついてくるようになった。各方面に多大な迷惑をおかけしながらも、当社が再起できたのは、9割も残ってくださった数千人のお客様によるご支援のおかげであった。(コラム5に続く)

ベストセラー御礼 本文一部公開中

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富裕層のNo.1投資戦略 ヘッジファンドダイレクト株式会社代表取締役社長 高岡壮一郎著

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タイトル 富裕層のNo.1投資戦略
著者名 高岡 壮一郎
ジャンル 投資/資産運用
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頁数 372P
ISBN 978-4-86280-544-7
税込価格 1,944円(本体1,800円)
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